ブラック企業とは、従業員の過剰な労働や適切な労働条件の提供が行われない企業のことであり、社会問題として取り上げられています。この記事では、ブラック企業の定義や問題点、対策について解説します。
目次
ブラック企業とは
ブラック企業とは、従業員の労働条件が劣悪である企業のことを指します。労働時間の過剰や休日出勤の強要、賃金不払い、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントなど、違法行為や倫理的に問題のある行為がおこなわれることが多く、存在が問題視されています。特に若い世代の社会問題として取り上げられており、社会的な批判を浴びています。
具体的には、以下のような特徴が挙げられます。
- 労働時間が長く、違法な残業が多い
- 賃金が低い
- 違法な労働条件がある(例:休日、出勤が義務付けられている)
- パワーハラスメントやセクシャルハラスメントがおこなわれている
- 従業員のプライバシーや人権が侵害されている
ブラック企業が存在する背景としては、競争激化や経済状況の悪化、経営者の倫理観の欠如、企業側の利益追求などが考えられます。
なお、厚生労働省ではブラック企業という用語ではなく、「若者の「使い捨て」が疑われる企業等」という言葉が使われています。
厚生労働省では、「ブラック企業」という言葉は使わず、その問題点を端的に表す表現として「若者の「使い捨て」が疑われる企業等」と称して対策を展開しています。具体的には、「若者の「使い捨て」が疑われる企業等」の特徴である過重な長時間労働の改善や、パワーハラスメントの予防・解決に向けた取組等を実施しています。
これは、ブラック企業という言葉の発祥がインターネットであり、ネットスラングが基になっていることが関係していると考えられます。概念としては2007年頃から存在していたといわれていますが、用語としては2013年頃から社会的に認知が進んできました。
2008年,2009年には「ブラック企業」は主要新聞ではほとんど取り扱われず,低調が続く。再び社会的関心を集めるのは2010年以降であり,急激に取扱い件数が増加した。「朝日新聞」,「アエラ」,「週刊朝日」における「ブラック企業」の語を含む記事の掲載件数は2009年1件,2010年4件,2011年7件,2012年23件,2013年172件であり,特に2012年から2013年にかけて激増していることがわかる。
ブラック企業の特徴
ブラック企業の特徴としては、過剰な労働時間や違法な労働条件が挙げられます。例えば、週60時間以上の労働時間や、賃金未払い、過重労働、パワーハラスメントなどが挙げられます。また、従業員が受ける被害状況としては、身体的な病気やケガ、精神的なストレス、うつ病や過労死などがあります。
過剰な労働時間や違法な労働条件
ブラック企業に勤める従業員は、過剰な労働時間や違法な労働条件に苦しめられます。具体的には、以下のような状況が挙げられます。
- 長時間労働が常態化しており、法律で定められた労働時間を大幅に超える残業が当たり前になっている
- 休日出勤が義務付けられており、有給休暇を取得することができない場合がある
- 残業代が支払われないことがある
- 健康を害するような労働環境(例:長時間のデスクワークや、身体を酷使する仕事)
- 事前に相談もなく、急なシフト変更がおこなわれる
こうした状況が続くと、従業員の健康や家庭生活に大きな影響を与えることになります。
賃金の低さ
ブラック企業に勤める従業員は、賃金が低いことが多いです。また、法定通りの賃金が支払われない場合もあります。このような状況によって、生活費や家計が苦しくなることがあります。これは基本給の少なさも影響しますが、残業代が支払われないということも一因となっていると考えられます。
画像引用:ブラック企業に関する調査(日本労働組合総連合会調べ)
ハラスメントの蔓延
ブラック企業には、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントが横行するケースがあります。上司や同僚からの暴言や嫌がらせ、性的な言動や行為に苦しめられることがあります。こうした状況は、心身の健康に影響を与えるだけでなく、業務への集中力やモチベーションを低下させることにもつながります。
人権の侵害
ブラック企業に勤める従業員は、人権が侵害されることがあります。具体的には、プライバシーや個人情報が漏洩することがあるほか、違法な監視や行動の制限がおこなわれることがあります。こうした状況は、精神的な負担やストレスを引き起こすことがあります。
ブラック企業がもたらす影響
ブラック企業の被害状況については、以下のような結果が報告されています。
- 労働時間の過剰な企業で働く人は、年々増加している
- 働き方改革に関する法律が施行されてからも、違法な労働時間や残業代未払いの企業は多数存在する
- ストレスや過労が原因で自殺する従業員もいる
これらのデータからも、ブラック企業が社会問題として深刻な状況であることがわかります。また、ブラック企業で働く従業員が、心身ともに健康を損なうことが多いことも報告されています。
ブラック企業は、従業員のメンタルヘルスへの影響が大きく、長時間の労働による過労やストレスが原因で、従業員が体調を崩すケースが多く、ブラック企業が増えることで、雇用情勢が悪化し、生産性の低下や経済の停滞につながる可能性があります。また、ブラック企業の存在は、企業の社会的責任を問いかけることでもあります。
また、ブラック企業がもたらす社会的な問題点もあります。例えば、ブラック企業が台頭することで、正規雇用が減少し、非正規雇用やパートタイム雇用など、不安定な雇用が広がっていく傾向があります。また、労働条件が悪いため、従業員の生活水準が低下し、貧困問題が深刻化することも懸念されます。
このような状況を防ぐため、労働基準法や労働安全衛生法により労働者の権利は法律で守られていますが、ブラック企業においては、そもそもの法律を順守していないことが横行しているため注意が必要です。
労働基準法(労基法)
労働基準法は、労働者の権利を保護する法律です。この法律には、労働時間や休日、賃金、労働条件などの最低基準を定めています。ブラック企業においては、これらの基準を遵守していない場合があります。労働基準法は、労働者を保護する法律の中でももっとも基本的なものであり、違反した企業には罰則が課せられます。
参考:労働基準法
労働安全衛生法
労働者の安全と健康を守るための法律です。ブラック企業においては、労働者の安全が軽視されていたり、環境が劣悪で健康を害することがあるため、この法律も重要です。
参考:労働安全衛生法
ブラック企業を避けるためにできること
ブラック企業に就職することを避けるためには、就職前に確認すべきポイントがあります。まず、企業の公式サイトや求人情報に記載されている労働条件を確認することが大切です。具体的には、勤務時間、休日の取得、残業時間の上限設定、有給休暇の取得、社員の声に耳を傾けることなどが挙げられます。
企業の実態についてのリサーチも重要です。企業が公式に公開している情報だけでなく、社員の声や口コミサイトなども参考にし、匿名掲示板やsnsのような不確かな情報であっても念のため確認はしておくことをお勧めいたします。さらに社員の健康維持や働きやすさに配慮した福利厚生が整っているかを確認することで、ブラック企業に巻き込まれる可能性を減らすことができます。
もし自分自身がブラック企業に勤めていると感じた場合は、すぐに転職先を探すことも検討してみてください。転職先を探すうえで、転職エージェントや求人サイトの利用は必須ですが、現在では企業口コミサイト経由で探すことも一般的になっています。
企業情報の確認
就職前に、企業のホームページやSNS、業界紙などから企業情報を集めてください。企業の経営理念や社風、社員の声などが掲載されていることがあります。また、就職希望者向けのイベントやセミナーに参加して、企業の雰囲気を肌で感じることも有効です。
労働条件の確認
企業の募集要項や面接の際に、労働条件について確認してください。労働時間や休日、給与などについて明確な回答を得ることができます。ただし、直接相対して確認した場合であっても、必ずしも真実がわかるとは限りませんので、可能な限り確認する範囲は広げておくべきです。
従業員の声の確認
企業の社員に直接話を聞くことで、企業の実態を知ることができます。社員の声を聞く場として、SNSや口コミサイト、元社員の方との交流会などがあります。ただし、この手の情報は主観がかなり強く入るため、信憑性については注意が必要です。
就職支援機関の活用
就職支援機関に相談することで、就職活動におけるアドバイスや情報提供を受けることができます。また、就職支援機関が実施する企業訪問プログラムに参加することで、ブラック企業を避けるためのノウハウを学ぶことができます。
ブラック企業に就職してしまった場合の対処法
ブラック企業に就職してしまった場合の対処法としては、以下のような対処法がありますが、ブラック企業で働くことはストレスや体調不良を引き起こすことがあるため、できるだけ早く転職することをおすすめします。
職場環境の改善を要求する
まずは、職場環境の改善を要求してみることが大切です。上司や人事担当者と話し合い、過酷な労働条件や違法な行為などを改善してもらうよう要請することができます。ただし、ブラック企業は改善する意思がない場合が多いため、一方的に退職を迫られることもあります。
労働組合に相談する
自分ひとりでは解決できない場合は、労働組合に相談することができます。労働組合は、適正な労働条件を守るように働きかけることができます。ただし、企業によっては労働組合を認めていない場合もあります。
労働基準監督署に相談する
労働基準監督署は、労働基準法等の法令に違反する事実を取り扱っています。そのため、ブラック企業を労働基準監督署に告発することで、会社に対して調査や指導、検察への送致(送検)をしてもらえることがあります。検察への送致は悪質な場合に限りますが、告発をすることにより職場環境が改善したり、不払い賃金問題の解消につながることがあります。
弁護士に相談する
過酷な労働条件や違法な行為がある場合は、弁護士に相談することも考えてください。弁護士は、法的な知識を持っているため、違法行為に対する対応策を提案してくれます。また、法的手続きをおこなうこともできます。
転職する
職場環境の改善が見込めず、解決策が見つからない場合は、転職することも検討する必要があります。次の職場で同じような問題が起きないように、企業の評判や社風などを調べ、慎重に選ぶようにしてください。
ブラック企業に対する社会的な取り組み
ブラック企業に対する社会的な取り組みは、法律上の取り締まりや労働者の権利を守る取り組みなどが行われています。
まず、ブラック企業に対する法的な取り締まりとしては、労働基準法や労働安全衛生法などに基づいて、厚生労働省や都道府県労働局による監督指導が行われています。具体的には、違反企業に対して是正勧告や指導、罰則などが課せられます。また、労働者派遣法や改正労働者派遣法などの法改正により、派遣社員の労働条件改善が進められています。
労働者の権利を守るためには、労働組合の存在が重要です。労働組合は、労働者の要望をまとめ、集団交渉やストライキなどの形で企業と対峙することができます。労働組合には、企業内に結成される企業別組合や、同一業界の労働者で構成される産業別組合があります。また、全国規模で活動する全国組合や、派遣労働者を中心に活動する労働者派遣別組合もあります。
さらに、ブラック企業に対する社会的な取り組みとして、就職活動時に情報を提供することも重要です。open workや転職会議などの企業口コミサイトやropro(ロプロ)のような企業検証サイトを活用することで、ブラック企業を避けることができます。
また、ブラック企業を監視するための「ブラック企業情報公表制度」があります。これは、ブラック企業であると認定された企業の情報を公表し、従業員の就職先選びに役立てることを目的とした制度です。この制度により、ブラック企業が取り締まられ、従業員を守るための環境が整備されることが期待されています。
参考:労働基準関係法令違反に係る公表事案(厚生労働省 東京労働局)
画像出典:労働基準関係法令違反に係る公表事案(一般社団法人セルフキャリアデザイン協会)
まとめ
ブラック企業は、過剰な労働時間や違法な労働条件が蔓延し、従業員のメンタルヘルスや生活に大きな影響を及ぼしています。また、ブラック企業は社会的な問題点を引き起こし、企業に対する信頼を損なう要因となっています。しかし、日本では労働基準法や労働安全衛生法、残業時間の上限設定に関する法律など、ブラック企業を防止するための法律が制定されています。
ただし、ブラック企業の特徴に当てはまる企業であっても必ずしもブラック企業とは言い切れないのが実際です。例えば、長時間労働を課されていたとしても、自身のキャリアプランに沿ったものであったり、法律を守った残業代が支払われていればホワイト企業と考えることもできます。
ブラックなのかホワイトなのかは度々話題に挙がりますが結局のところ、自身の価値観で判断するしかないのが現状です。そのためには、情報の正確性と信頼性を自分で判断し、適切な検証をおこなうよう努めるようにしてください。