働き方改革とは?導入企業や従業員のメリットや導入事例を解説
近年、少子高齢化やグローバル化、技術革新などの社会変化に伴い、労働者の働き方に対するニーズも多様化しています。従来の働き方では、個々の事情に合わせた働き方がむずかしく、人材不足や長時間労働などの問題が深刻化していました。働き方改革とは労働者一人ひとりの事情に合わせた働き方ができるような社会を実現することが目的の改革です。
2016年9月に働き方改革実現会議が設定され2017年には柔軟な働き方ができるような環境や長時間労働の防止など方向性を明確にしています。さらに、働き方改革法案や働き方改革関連法が施行されています。
目次
働き方改革とは
働き方改革とは、2016年に働き方改革実現推進室が設置した多様な働き方を実現することが目的の改革です。従業員一人ひとりのキャリアプランや目的などに合わせた働き方を可能にします。
日本は少子高齢化が続き、労働人口が減少し続けています。さらに、長時間労働や男女間の雇用形態の処遇差、低い労働生産性などさまざまな課題があるのが現状です。これらの課題を解決するために、厚生労働省では次のような動きを見せています。
- 残業時間の上限規制
- 確実な有給休暇の取得
- 多様な働き方の実現
- 不合理な待遇差の廃止
残業時間の上限規制
労働基準法が改正される前は、残業時間の上限が法律上では設定されていませんでした。その結果、長時間労働が常態化し、過労死問題などの深刻な社会問題を引き起こしました。おのため、労働基準法が改正され、残業時間の上限が設定されました。
確実な有給休暇の取得
厚生労働省では従業員を雇い入れてから6か月以上経過した時点で、年間で10日以上の有給休暇が付与される従業員に対しては5日間の有給休暇が義務付けられています。
全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました。
しかし、多くの企業では、従業員の有給休暇取得率が低く休暇取得への抵抗感や取得しづらい雰囲気があるのが現状です。そこで、厚生労働省では次のように所定の年次有給休暇を取得させない場合には罰則が課せられます。
画像引用:年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説(厚生労働省)
多様な働き方の実現
働き方改革において多様な働き方の実現も重要な要素です。在宅ワークや短時間労働などさまざまな働き方ができる職場であれば、優秀な人材が退職せずによくなる可能性があります。多様な働き方を積極的に推進することは、人材確保、従業員エンゲージメント向上、組織活性化など、多くのメリットをもたらし、企業の競争力強化につながります。
多様な働き方を取り入れることで、企業はさまざまな人材を活用する機会を得ることができます。たとえば、子育てをしている従業員や副業を持ちたい従業員など、異なるニーズを持つ人々にも働きやすい環境を提供することが可能です。
不合理な待遇差の廃止
正規社員と非正規社員の待遇差も働き方改革において大きな課題となっています。多くの企業が人件費削減を目的として派遣社員を雇うことで、正規社員と同じような働き方をさせているケースが少なくありません。
正規社員と非正規社員の待遇差解消は、単に法的な義務を果たすだけでなく、企業の競争力強化にもつながります。多様な働き方に対応した柔軟な制度を設計することで、能力や経験を最大限に発揮できる人材を確保し、持続的な成長を実現することができます。
働き方改革を導入する企業側のメリット
働き方改革を導入することで、企業側には次のようなメリットがあります。
- 業務効率化
- 人材確保
- 業績の向上
業務効率化
長時間労働を軽減するためには、業務効率化が必要不可欠です。近年、長時間労働は社会問題化しており、労働者の健康被害や生産性の低下など、さまざまな問題を引き起こしています。
テレワークやフレックスタイム制、在宅勤務など、多様な働き方を導入することで労働者のワークライフバランスを実現し時間管理を改善できます。また、ITツールの活用や人材育成など働き方改革に取り組むことで業務効率化につながります。
業務の効率化は単なる時間の節約だけでなく、従業員の負担軽減やストレスの軽減につなげることも可能です。効率的な業務プロセスは従業員がより集中して作業に取り組める環境を提供するため、従業員満足度や生産性の向上を期待できます。
人材確保
働き方改革を進めることで従業員一人ひとりの満足度が高まり、優秀な人材確保につながります。日本は少子高齢化が進み人手不足である状況です。優秀な人材を確保するためには従業員一人ひとりが満足できるような社内環境や働き方改革を推進することが重要です。
近年、働き方改革は企業においてますます重要性を増しています。柔軟な勤務時間やリモートワークの導入、ストレス軽減の取り組みなどさまざまなアプローチがおこなわれています。これらの取り組みは、従業員のワークライフバランスの向上や働きやすい環境の提供につながります。
また、働き方改革は優秀な人材を確保する面でも有効です。現代では、求職者も企業の社内環境や福利厚生など働く環境を重視する傾向があります。したがって、働きやすい環境を提供することで企業は競争力のある人材を引き寄せることができます。
業績の向上
優秀な人材を確保することで、業績の向上が可能です。経験豊富で能力が高い従業員を長期間確保することで業務の効率化や革新的なアイデアを生み出すことができ、競争力の強化や市場での地位向上に貢献することが可能です。一方で、離職率の高い企業は人材の定着率が低く労働力が安定しない傾向にあります。
従業員の定着率が低いと、企業は人材確保にかかる費用や時間が増え生産性が低下することがあります。企業は優秀な人材を採用し定着させるためには、給与水準の競争力強化やキャリアパスの提供、働きやすい環境の整備などさまざまな取り組みが必要です。
働き方改革を導入する従業員側のメリット
働き方改革を導入した企業では、従業員にとっても働きやすい環境であるといえます。従業員にとって次のようなメリットがあります。
- ワークライフバランスの維持
- 多様な働き方の確保
ワークライフバランスの維持
働き方改革を進めることで残業時間が減り、家族と過ごしたり趣味に時間をかけることができる時間が増えます。つまり、働き方改革を進めることでワークライフバランスの維持につなげることが可能です。
ワークライフバランスの向上は、従業員の生活満足度や健康増進にもつながります。仕事とプライベートの両立がしやすくなることで、ストレスが軽減され心身の健康状態が向上します。
多様な働き方の確保
働き方改革によって短時間で勤務をしたり、テレワークを導入したりするなど多様な働き方を実現可能です。これまでの働き方であれば育児や引っ越しなど生活環境が変わったことで退職するしかなかった人材でも、今後は働けるようになる可能性があります。
テレワークの普及によって場所や時間に制約されない柔軟な働き方が可能となりました。育児や介護、地方への移住などさまざまなライフステージや生活環境の変化に対応しながら働くことができるようになります。
働き方改革の事例
さまざまな企業で働き方改革の取り組みをしています。特に女性が働きやすい環境の整備に取り組んでいる企業が多くみられることが特徴です。
トヨタ
トヨタでは、女性が活躍できるような雇用環境を整えるために行動計画を立てました。管理職に占める女性の割合が少ないことから、10年間で女性管理者数を4倍、15年間で5倍とすることが目標です。具体的には新卒時に一定比率以上の女性を採用したり、メンター制度を活用したりするなどさまざまな取り組みをおこなっています。
女性のキャリア形成やリーダーシップ育成を支援するためのプログラムやトレーニングを提供し、キャリアの構築を後押ししています。さらに、育児や介護といったライフイベントに柔軟に対応するための制度やサポート体制も整備されていることが特徴です。
花王
花王では、育児両立支援制度を設けることで、女性の活躍を推進しています。女性が出産や育児と仕事を両立しやすい環境を提供することを目的としています。具体的には、柔軟な勤務時間やリモートワーク、育児休暇の延長などの福利厚生を充実させています。
また、男性にも育休取得促進をおこなうことで、家庭内での育児や家事の負担が分担され女性の育児期間ブランクを最小限にする取り組みをしていることが特徴です。花王の取り組みは、女性が育児と仕事を両立しやすい環境を提供するだけでなく、男性も育児に参加する文化を育成することを重視しています。
参考:花王、育児両立支援制度の新設・拡充で女性活躍推進を加速(花王)
東急百貨店
東急百貨店は仕事と家庭の両立支援制度として出産休暇や配偶者出産休暇、育児勤務などに取り組んでいる企業です。次世代育成支援に積極的に取り組んでいる企業として、厚生労働省では東急百貨店を2007年以降に6回認定しています。
東急百貨店の取り組みは、家族との時間を大切にしながら仕事に集中できる環境を提供することで、従業員の生活満足度や働きがいを高め組織全体のパフォーマンスを向上させています。
まとめ
働き方改革とは、従業員が多様な働き方をすることが目的の取り組みです。従業員一人ひとりがそれぞれのニーズに合わせて働けることで、従業員満足度が高まります。従業員が柔軟な働き方を選択できることで、仕事とプライベートのバランスが改善されストレスや疲労の軽減にもつながります。
さらに、多様な働き方を実現することで労働力の有効活用が促進され業務の効率化やイノベーションの促進にもつなげることが可能です。企業にとっても従業員の離職率が下がりステークホルダーからの評価が高まることから、生産性や業績の向上が見込めるなどメリットがあります。